―――そんなこんなで、今も二人はチェスをするためだけに会っている。
ぬるま湯に浸かっている様な、退屈で仕方無い貴族の生活の中で、この互角の相手とやるチェスだけが、唯一の楽しみとなっていた。
二人以外誰もいない静かな室内で響くのは、駒が動く音とちょっとした会話。
お互い顔は見ない。常に視線は、白熱の戦いが行なわれているチェス盤に注がれているのだった。
「………人間、どんな縁があるか分からないものですわ…」
「………あぁ?」
溜め息混じりにリネットは呟いた。
アベルは一瞬眉をひそめたが、気にせず流した。
「………………近頃、大臣らの間では、貴方の話が持ち切りですわよ。………『リネット姫様に唯一切られていない、希望の少年』………だそうよ」
「ウザいな」
アベルは顔をしかめ、ポーンの一つを前進させた。
大臣らの噂通り、確かにアベルは唯一、リネットの無慈悲な虐待の牙にかかっていない少年だった。
アベルとリネットはただチェスをするためだけにこうやって会っているだけなのだが……周りの大人達はどうも勘違いしているらしい。
これまでのリネットの行動からすれば、勘違いするのも無理はないことだが。
「……子離れ出来てないウチのババアが、泣いて喜んでやがる。………姫様とは上手くいってるのね―……だとよ。何言ってやがるんだ……」
「今だけでも幸せに浸らせておきなさいな。………貴方、少しは親孝行しなさい」
「やなこった」
ガツン!、とアベルのナイトが勢いよく前進した。


