「………ご機嫌麗しゅう、リネット姫様……本日は女王陛下様から御招き頂いた次第で…」
「私は招いていないわ」
決まり文句の様な丁寧な挨拶を、リネットは持ち前のよく切れる毒舌で切り落とした。
………たいていの者はここでぽかんと惚けた顔を見せるのだが………この少年は品の良い笑顔のままだ。
そんな綺麗な笑みを見せたまま………少年は、再度口を開いた。
「―――………こっちも好きで来た訳じゃねぇんだよ…じゃじゃ馬女」
え…?、と誰もが聞き返すであろう少年のあってはならない爆弾発言。
言った直後、少年の笑みは一瞬で苛立つ不機嫌な少年へと豹変した。
……パチン、とリネットは扇子を開き、口元を隠して……扇子の裏で、笑みを浮かべた。
「………相変わらず口の悪い殿方ですこと………コール男爵のご長男、アベル様…」
「コール男爵は余計だ。………虫酸が走る……茶を持って来たんだろ?早くよこせ。こちとら無駄な早起きでろくに朝食をとっていないんだよ……」
……リネットとの面会を無駄だと言い切るアベル。
姫君との面会とは即ち、婚約者にふさわしいかどうかを見極める、貴族間での一種の試験であった。
姫君に気に入られ、婚約までこぎ着ければ合格。晴れて玉の輿に乗る事が出来る。
王族と縁が持てる…次の王位継承権を持てると、貴族の親達は血眼になってこの政略結婚に我が子を差し出すのだ。
厳しい教育を受けている子供は親の意思に忠実に動き、この試験に臨むのだが。


