「………たかがペーパーナイフの一本に怯えるだなんて。………今際の際でサバイバルナイフにでも見えたのかしら」
「いや、死んでないから彼」
ペーパーナイフをポケットに収めながら眉をひそめてブツブツと呟くリネットに、ベランダの下を覗き込むキーツが突っ込んだ。
キーツとローアンは仲良く並んで、ぶら下がる少年をただただ見下ろす。
………いや、もしかしたら冗談抜きで死んでいるのかもしれない。
「………先週はナイフ投げの的で、一昨日は火の輪潜り。………今回はバンジージャンプだなんて……リネットお姉様、公開処刑がだんだん過激になってきていやしませんか?」
最近、悲鳴が絶えない…とローアンは溜め息を漏らした。
こうなる度に、何かしらトラウマを抱えた貴族の長男がまた一人世間に現れる。
………城内から慌ただしい声と悲鳴が聞こえてきた。
…ぶら下がった我が子を、ふと外に目を移した両親が運悪く見つけてしまったのかもしれない。
もしくは、それよりもいち早く発見し、証拠隠滅を計るべく手慣れた様子で指示を出すアレクセイと家来達の声か。
……毎度毎度、哀れな少年達は哀れな結末を迎え、病院経由で帰って行く。
それを分かっているのかいないのか……いや、絶対に分かっている筈なのだが、女王陛下は懲りずに笑顔でまた新たな貴族を城に呼ぶ。
肉体的にも、精神的にも傷を残す過激な抵抗も、母の前では虚しく散っていくため………リネットへの求婚者は、やっぱり絶えない。
「………何だか、可哀相と思うのも疲れてきましたわ」
姉譲りで酷い事をサラリと言ってのけるローアン。
しかし事実、思い過ぎて疲れていた。


