―――……跳ぶ。
それは一体、どんな状況下で投げ掛けられた言葉なのか。
まだ幼い子供。
成人にもなっていない華奢な身体付きをした少女は、明るい茶色の豊かな髪をなびかせ、品の良い柄の扇を口元に当ててその鋭い眼光だけを晒している。
…獲物を狙う肉食獣の如き瞳は恐ろしくもあるが………妙に、艶のある妖しい輝きを秘めていた。
底の知れない瞳は、陽光を浴びてギラギラと光を放っている。
…そんな彼女が見つめる先には、少年が一人。
これまた品の良い服を着こなした、なかなか聡明な顔付きの少年だ。
だがそんな彼の聡明さも、今や彼自身にとって何の役にも立たない代物なのだった。
………今にも失神しそうな彼の両足首には、しっかりと結ばれた太い縄。
その縄は長く、室内の柱から続いていた。
今日は晴天。微風が吹くお昼過ぎ。
なんてのどかな。
なんて心地よい。
………そんな素晴らしい風景が一望出来る、城の最上階の一室。
そして少年はその部屋のベランダに、震えながら佇んでいた。
否。立たされて、いた。
「………私を愛しているのでしょう?………ならば行動で示して下さいな。………さぁ、そこからお跳びになって……。…………跳べ…」
ホホホホホ…と笑いながら笑えない事をサラリと要求するリネット。
ガクガクと震える少年の反応を見るのが楽しい様だ。