夜明けが近い。



もうそんな時間か。















たくさんの無惨な死骸から視線を外し、星明かりが薄らいできた夜空を見上げた。


煙管を咥えたまま軽い溜め息を吐くと、口と鼻から白い煙が漏れた。

「………寒ぃ…」


立ち込める異臭と悲鳴に背を向けて、訪れる冬の空気を実感していた。
………背後の口を開けた扉。


偉大なる城の入口からは、もう盛大な宴の、華やかな雰囲気は微塵も感じられない。


………結婚式という幸せ絶頂のイベントをこんなふうにしたのは自分らだ。



「………哀れ、哀れ。………………恨むなよ~…」


ふざけた口調で城に向かってウインクし、何事も無かったかの様に再び煙管をスパスパと吸い出す。


凄惨な虐殺を舞台に、どうしてこんなにも冷静なのか。

自分でもよく分からない。














瓦礫に寄り掛かってぼんやりしていると、暗闇に紛れて男が一人、丘の下から登って来た。

………物騒な剣を片手に辺りを睨み付ける彼は何故か、不機嫌マックスだった。


煙管を一旦外し、煙を吐きながら男に声を掛けた。






「………どうしたゴーガン。………歩く殺人鬼みたいだな…」

「………………バレン隊長、こちらに………ガキを抱えた老いぼれが来ませんでしたか……?」

ゴーガンは眉間に皺を寄せ、悔しそうに言った。

「………あ?……さぁな~……俺、今ここに来たから。………登ってくる途中は人っ子一人見なかったぜ」

………どうやら、ゴーガンは城内から誰かを逃がしてしまったらしい。

ジジイ抱えたガキ?……あれ?…ガキ抱えたジジイだっけ?

まぁいいや。