恐らくこの村の唯一の水源なのだろう。重宝されているらしいそれは弦も桶も幾度も修理された跡があり、水浸しのその一帯の土壌だけは久しく喉の渇きを覚えていない様だった。
広場で孤立する井戸を中心に、ちらほらと何処か遠慮がちに並ぶ似た形式の家屋の群れ。
どの家の脇にも蓄えた薪が積み重ねられ、軒先には錆びた斧と箒、鍬や水瓶が無造作に置かれており、人気が無い割には生活感が滲み出ていた。
景観を大事にする城下街とは違う雰囲気に、ここらは本当にのどかで喧騒とは無縁の田舎なのだなと改めて実感する。
視界の先で、空に飛び立とうと懸命に助走を付けて横切っていく雄鶏を意味も無くぼんやりと目で追った後、リストは改めて村長に名乗った。
「申し遅れました。本日、こちらの村へ人口調査及び農村部復興のための資材運搬を申し仕えて参りました。フェンネル国家騎士団特務師団長、リスト=サベスです」
軍人らしくきびきびとした動作で直立、敬礼を取りながら、リストは先日任命された新しい階級を言った。
背後に立っていた騎士団の面々も上司に倣って揃って敬礼すると、対する村長は些か低すぎるのではないかと思えるくらいに頭を下げ、どもりがちな緊張気味の声で言葉を返した。
「…えー…この村の、村長を務めて、おります……本日は、この様な辺鄙な所まで足を運んで頂き、大変…恐縮で…」
「フェンネルの民の声には等しく耳を傾け、その助けとあらば迅速に行動せよ…と、我らが陛下からの命です。村の規模や距離など関係ありません」
「…さ、左様で…。……本に…有り難い事です……。ひ、一先ず…どうぞ村の中にお入り下さい。わしの家ならば皆様の人数でもお通し出来ます。大したもてなしは…出来ませんが…」
「御親切に有り難う御座います。しかしながら、我々は本日中に城に戻らねばなりませんので、資材を置き次第帰路につくつもりです」
大荷物を運び、村の正確な位置確認と人口調査を終え次第帰るつもりだと告げると、村長は申し訳無いと繰り返し頭を下げ続けた。随分と腰の低い村長さんなのだなと思ったが、ここは都心から離れた田舎の中の田舎だ。城だとか騎士団だとかとはほとんど縁も無く暮らしてきた民からすれば、こうして相見えるなど大げさかもしれないが夢の様な事に違いないのだろう。
広場で孤立する井戸を中心に、ちらほらと何処か遠慮がちに並ぶ似た形式の家屋の群れ。
どの家の脇にも蓄えた薪が積み重ねられ、軒先には錆びた斧と箒、鍬や水瓶が無造作に置かれており、人気が無い割には生活感が滲み出ていた。
景観を大事にする城下街とは違う雰囲気に、ここらは本当にのどかで喧騒とは無縁の田舎なのだなと改めて実感する。
視界の先で、空に飛び立とうと懸命に助走を付けて横切っていく雄鶏を意味も無くぼんやりと目で追った後、リストは改めて村長に名乗った。
「申し遅れました。本日、こちらの村へ人口調査及び農村部復興のための資材運搬を申し仕えて参りました。フェンネル国家騎士団特務師団長、リスト=サベスです」
軍人らしくきびきびとした動作で直立、敬礼を取りながら、リストは先日任命された新しい階級を言った。
背後に立っていた騎士団の面々も上司に倣って揃って敬礼すると、対する村長は些か低すぎるのではないかと思えるくらいに頭を下げ、どもりがちな緊張気味の声で言葉を返した。
「…えー…この村の、村長を務めて、おります……本日は、この様な辺鄙な所まで足を運んで頂き、大変…恐縮で…」
「フェンネルの民の声には等しく耳を傾け、その助けとあらば迅速に行動せよ…と、我らが陛下からの命です。村の規模や距離など関係ありません」
「…さ、左様で…。……本に…有り難い事です……。ひ、一先ず…どうぞ村の中にお入り下さい。わしの家ならば皆様の人数でもお通し出来ます。大したもてなしは…出来ませんが…」
「御親切に有り難う御座います。しかしながら、我々は本日中に城に戻らねばなりませんので、資材を置き次第帰路につくつもりです」
大荷物を運び、村の正確な位置確認と人口調査を終え次第帰るつもりだと告げると、村長は申し訳無いと繰り返し頭を下げ続けた。随分と腰の低い村長さんなのだなと思ったが、ここは都心から離れた田舎の中の田舎だ。城だとか騎士団だとかとはほとんど縁も無く暮らしてきた民からすれば、こうして相見えるなど大げさかもしれないが夢の様な事に違いないのだろう。


