亡國の孤城 『心の色』(外伝)



村の入り口でリストを迎い入れてくれたのは、年期の入った杖を片手に突く初老の男だった。
彼を連れてきた村人曰わく、この村の村長であるらしい。
にこやかな微笑を浮かべる本人を前にしつつも、リストの目は少々地肌が見え隠れする白髪混じりの頭や刻まれた深いしわについつい行ってしまう。

まだそんなに歳はいっていない様だが、これまで苦労が絶えなかったのか…溜まりに溜まった疲労が見た目に滲み出ている様だった。
普段見慣れている身近な老人が歳の割にあまりにもアグレッシブなばかりに、一般的な老人というものがどういうものかうっかり忘れていた。


(いや、そもそもアレクセイと比べる事自体が間違いか)


あれは老人であって老人ではないし、執事であってただの執事ではないし、一般人に区分するには些か人間離れし過ぎている気がするし、かと言ってじゃあ人間じゃないのかと言われたらそりゃあただの人間だがただの人間って断言するのも釈然としないし、じゃあ何なんだよと言われたらもう面倒臭いからただのアレクセイでいいと思う。



「………あの、どうかなされましたか…?」

「あ、いいえ。とるに足らない考え事をしていただけです、申し訳無い」

僅かな間だが、一人無言で百面相を繰り返していた目の前のリストに、恐る恐るといった様子の村長の声が掛かる。



程無くして追い付いてきた兵士と共に、リストは村長等に先導されて村の中に足を踏み入れた。
湿気った空気は鬱蒼と生い茂った外の森と変わらぬものだったが、人の手が入った道や定位置で建つ小さな家屋の並びのある風景は、安らぎにも似た少しばかりの開放感を抱かせた。
山中で遭難した旅人が、ようやく人の暮らしが見える村に辿り着いた時の心境とはこんなものなのだろうか。
少し進んだだけで、一同の姿はあっと言う間に村の中心部にあった。小さな村だと思っていたが、中を歩けばその狭さがよく分かる。
村の中心に位置する開けた場所には、村人が共同で使用すると思われる古びた井戸が一つ。