亡國の孤城 『心の色』(外伝)


にやりと意地の悪い薄ら笑みを浮かべ、犬猫を追い払うかの様にしっしと手を振るダリルに、沸点の低いリストの手が反射的に腰元の短剣に伸びる…のを予期していた兵士が、咄嗟に上司の暴挙を抑えた。
至って普通の無表情だが、鬼気迫る般若面を後ろに控えさせながら部下の腕を振り払おうとする目の前の彼に、ダリルは我関せずと背を向けた。


ほぼ無音で行われる…主に平和を望む部下の制御によって成り立つ攻防戦に終止符を打ったのは、村の奥から歩いてきた人影の掛け声だった。

背に受けたその声を聞き、部下の兵士はしめたとばかりに羽交い締めしていたリストをそのままダリルから引き離した。

「ほ、ほら!村人が呼んでいますよ!待たせる訳にはいきませんから直ぐに行きましょう!」

「ああ勿論だ、待たせる訳にはいかない。あの寝癖野郎の澄まし顔に一発拳をぶち込んだら直ぐに村長に会うつもりだ、だからこの手を離せ」

「全然納得いかない!離して良い結果になる気がまるで無い!…ほらほら村人の目が不審者でも見る様なそれになってきているじゃないですか!騎士団の威厳をがた落ちする様な振る舞いだけは本当に勘弁して下さいよ!」


怒っているのか泣いているのか。
とにかくえらく必死な部下の訴えを渋々聞き入れる事にしたリストは、つい先程のダリルとの些細な口論の記憶もダリルの存在自体も盛大に頭からその辺にべしゃりと叩き付け、襟を正すと数人の人影がある村の入り口へ向かった。





「………じゃ、用が出来た時だけ呼んでよ」

未だに怒りがくすぶり続けているのが傍目でも分かる背中を見送ると、ダリルは馬車に積まれた木材の上に飛び乗り、そのままごろ寝を始めてしまった。

柔らかい日差しどころか、湿気を孕んだ日陰しかない中でうたた寝など出来そうに無いように思えるが…頭上高くで無造作に足を投げ出している姿からは、彼の思考も表情も窺い知れない。
…これは本当に用が無ければ呼んでも降りては来ないだろう。

仕方無いと溜め息を漏らすと、兵士はリストの後を追わんがために踵を返した。