亡國の孤城 『心の色』(外伝)

眉間にしわを寄せるリスト達の間から、ダリルもひょっこりと顔を出して地図を見下ろす。随分と汚い地図…いや、もうこれは地図じゃなくて鼻をかむちり紙として使った方が遥かに有効的に違いない、と思いながらダリルはぼんやりと口を開いた。

「………あー…この辺ね。どれがどの村なのか、多分分かるよ」

位置、距離、方角共にこの辺りの地図が頭に入っているらしいダリル。村の名前を言ってくれれば、後はもう簡単に案内出来るよ…と言う彼に、周りの兵士達から感嘆の声が上がった。

「…そうか、それじゃあ頼む」

ここはもうこいつに任せるしかないと判断したリストは、ダリルを先頭で歩かせることに決めた。一先ず先頭に移動するため、ダリルはリストを追い抜いて兵士と共に前方の馬車へと歩む。


「…それで?何処の村に行きたいの?何ていう名前?」


獣道らしい獣道を、歩きにくそうな兵士に対してダリルの足は一度も躓くことなく真っ直ぐ進む。
大きな石礫、腐った落ち葉が溜まった小さな泥溜まり、根が焼けて横倒しになっている細い木々、カーテンの如く頭上を覆う茨、蜘蛛の糸の巨大なレース、針山の如く群れを成す雑草の群集。

煉瓦造りの補整された道と違って歩行困難な獣道を、ダリルはひたすら淡々と歩く。

人の歩くという行動には、その人の性格や考えていることがそのまま体現されているのだと考えている。それは自分も例外ではなく、ダリルは己の歩みを理解しているつもりだ。
不要なものはとりあえず切り捨てる主義の、さばさばとした彼らしい歩みは、常日頃彼に迷いが無いことを表しているかの様で。



「はい、村の名前は―――」








“―――”。






だから、その歩みが一度でも不意に止まった時。

無感情でつまらないと自負している自分にも、人間らしい感情の起伏が、きちんと備わっているのだなと……頭の隅で理解し、そして感心するのだ。


そしてそれが非常に滑稽で、笑える。嘲笑的な意味で、笑える。
人間らしくない僕も、なるほど、人間だったのかと。






「…どうしました?…もしかして、心当たりの無い名前でしたか?」



数歩先でこちらを振り返る兵士の不思議そうな表情を見て、ダリルは自分が立ち止まっていることに気付いた。



「………いいや」

その道の先に伸びる暗闇の奥の、その向こうを……ダリルの濁った双眸が、ぼんやりと映す。








「………大丈夫だよ、知ってる」








本当に、笑える。



こんなに動揺するのは、何年振りだろう。