亡國の孤城 『心の色』(外伝)

「歳を重ねるにつれて、それは悪化していったよ。…見たくないもの、知りたくもない情報がより多く、より早く湧いていって…苦しくて仕方なかったけど……その内、自分で制御出来る様になった。…少しずつだけど、見えるものの幅を狭めて…入ってくるものの量を減らして………初めて何も無い、何も見えない、うるさくもない、静かで真っ暗な中で眠ることが出来たのは………六つか、七つの頃だったかな。……………初めて熟睡出来たのには、馬鹿みたいに感動さえしたよ」

「………」



何て事のない様に話すダリルだったが、話を聞いていた誰もが、何処か気まずそうに一様に口を閉ざしていた。隣を歩くリストも、前に進むことだけを考えているかの様に、ただひたすら無言でいた。
どんな反応をすればいいのか、そもそもこの会話を繋げる様な言葉も持ち合わせていないというか…短い行列のとある一帯だけが、妙な沈黙を漂わせている。聞こえるのはやはり無感情なダリルの声と、ビーレムが地を叩く軽快な蹄の音ばかり。

お呼びではない緊張感は張り詰める中、この重い空気を散らす程ではないが、少しは緩ませてくれる声が行列の先頭辺りから聞こえてきた。




「―――この先、道が二手に分かれています」



声は、先頭を歩いていた馬車からだった。
行き先の確認をしているらしい。この辺りは複雑な道…否、長年整備されていなかったために出来た獣道は、かなりの数で枝分かれしている。鬱蒼と茂った森の奥は真昼間だというのに暗闇が巣食っていて、いくら目を凝らしても道らしいものが見えてこない。これは確かに…案内人が必要な筈だ、と兵士達は溜息を吐いた。

短い行列は一旦、二又に分かれた道の手前で立ち止まった。先頭を歩いていた兵士が地図を片手に、後方にいるリスト達に駆け寄ってくる。兵士が手元で広げたしわだらけの地図に、リストは視線を落とした。

「この地図によると、この先に幾つか小さな村があるようです」

「……四、五つ記されているが…それは現存しているのか?」

「いえ…村からの報せによると、戦火などで半分は既に廃村と化しているそうです。村から村へ移住してきた難民も集まり、今は既存していた一部の村で共々暮らしているのだとか」

「…村の名前が書かれているが……虫食いだらけで解読不可能だな…」


地図に記されている村の位置はなんとか分かるものの…村の名前が何と書かれているのか分からないため、今から行く村がどの村なのか…なるほど、これではさっぱりだ。
村の印を頼りに歩いていって廃村でした…など、あみだくじでもあるまいし。無駄足でしかない。