亡國の孤城 『心の色』(外伝)

そう言ってちらりとリストに顔を向ける彼の目は、確かに正常な眼球の動きを見せていなかった。
相変わらず焦点は動かぬままで、不意に降りてくる眩しい木漏れ日を浴びても、眩しいということを知らない双眸は一向にその瞼を閉じる気配が無い。本当に、彼はその能力を除けばただの盲目なのだ。

先天的に盲目の人間は勿論だが、戦争で視力を失ったという後天的な人間も多くいる。生き辛いこの世の中、その誰もが不自由な暮らしの中で杖を突くことを強いられているのが現状である。今日の様な遠出でその様な者達を目にする度に、リストは早くどうにかしなければというやり場の無い焦燥感を何度も味わうのだ。

それに比べ…と、リストは再度ダリルを見やる。
さっさと顔を背けてしまった無表情な横顔は、盲目にある不自由さを欠片ほども感じないとでも言うかのように、実に飄々としている。…まあ実際、その通りなのだろうけれど。

「……見えてないのが何のハンデにもならないんだな…お前の、その力ってのは…。………便利でいいな」

普通の生活が出来るならまだしも、戦闘においては絶大な効力を発揮するのだ。「理の者」にある身体的な欠陥とやらも、神に与えられた力の大きさを考えれば欠陥ですらないのではないか、とさえ思えてくる。
持って生まれる筈だった視力の代わりに、こんなにも便利な力を授かったのだ。単純に凄いな、という率直な感想をリストは抱いたが……当のダリルは、間の空いた小さな溜息を返した。


「……そうでもないと思うけど。便利…って言ったら便利だけど…便利過ぎるのもどうかと思うよ」

高い木々の隙間から覗く真上の晴れ空を見上げながら、うーん…と首を傾げてそう呟くダリルに、それとなく話を聞いていたらしい部下の一人が後ろから声を掛けてきた。
足元に注意して淡々と歩くだけを継続している兵士達は、皆暇らしい。リストとダリルの声が聞こえる範囲にいる者達は、揃いに揃って耳を傾けていた。
ダリルの不可思議な能力に関して、興味を抱かない者はいないだろう。

「そうですか?……便利であることに越したことは…ないと思うのですが…」

実力もそうだが、才能はあればあるほど良い…と考える部下達は、ダリルの微妙な反応に同じく首を傾げる。皆一様に訝しげな表情を浮かべる中、ダリルは相変わらず前を見据えたまま……淡々とした口調で答えた。


「…成長するにつれて頭に見えるもの…って言うか、浮かぶものがどんどん増えてきて…それが四六時中。勝手に湧いて、湧いて、湧いて…湧くだけ湧いて、消えてくれなくて…ごちゃごちゃして…寝ても覚めても、僕の世界は物凄くうるさかったね、本当に」

「………」