緑の馬のビーレムが引く馬車は普段ならば人が乗る乗り物だが、今回ばかりは資材の運搬がメインのため、手綱を引く者以外は皆徒歩だった。
十数人の小勢で、人気の無い道をとぼとぼ進んでいく。ふと元来た道を振り返ってみれば、広大な城はいつの間にか森の木々の向こうで小さくなっていた。
城の周囲にうっそうと茂る沈黙の森に足を踏み入れれば、方向感覚や距離感が分からなくなる。何度も入っているのだが、未だにこの森の地理は掴めていない。
さすがは自然の城壁、とでも言うべきだろうか。
「これからの予定ですが、とりあえず資材を目的地の村に置くのみです。今日の本来の目的は、農村の正確な所在地の確認ですからね。復旧作業は後日になります」
つまりは行って帰ってくるだけか、と団員の話を聞きながらダリルは頷いた。自分の役は本当に道案内だけらしい。まあ、こうやって城から遠出するのも気分転換になって良いかもしれない。
それからまた少しお天道様の位置が変わった頃、のんびりと進んでいた道は幾つかの分かれ道が続く様になってきた。
整備されてからだいぶ経っているらしい雑草だらけの凸凹道に入ると、馬車の揺れも大きくなる。足元には拳サイズの石が目立つようになり、うっかり躓く者もいた。
無言でひたすら前に向かって歩いていたダリルは、行く先に邪魔な石があればその都度ひょいひょいと避けたり跨いだりと障害物をかわしていった。
その際、その無表情を一度も足元に向けずに歩いている様が、他の者には不思議に思えてならなかったらしい。
一人分の距離を置いて隣に並んで歩いていたリストが、恐る恐るといった様子でダリルに声を掛けてきた。
「………なあ、お前ってその………本当に、目が見えてないんだよな…?」
「見えないよ。ほら、視点があってないでしょ」


