その場の空気が…否、リストの動きがピシリと止まった音を、部下の兵士は確かに聞いた。
錆び付いた機械の様にキリキリとぎこちない動きでダリルに顔を向け、枯れた声を絞り出す。
「………く……詳しい、だと…?」
「昔、訓練や任務で色んな場所に行ったし、個人的にもあの辺りは馴染みがあるから………まぁ、それなりに」
腕を組んでそう答えるダリルは、何だか薄ら笑みを浮かべている様に見えた。
地理に詳しい者を見つけたと言うのに、私情で決断が出来かねているらしいリスト。頭の中で何かしら葛藤を続けているのかは知らないが、ただ黙り込んでいるリストに対し………ダリルは、ニヤリと悪そうな笑みを見せた。
「…迷子になりたくないでしょ?………こうやって悩んでいる今こそ、無意義なんじゃないの?」
その直後、部下の兵士は目の前の上司の舌打ちを確かに聞いた。
「ただの調査なのに、随分と大荷物なんだね。これって何?木材?」
「はい。何処もそうですが、とりわけ郊外の農村は予想以上に復旧作業が進んでいないのが現状です。戦火で家を失い、未だに雨風を凌ぐのも一苦労という場所もありますから。そのため我々が調査を兼ねて出来る限り材木を各地に配給しているという訳です」
「わざわざこっちから持っていかなくても、材料くらいは現地の人間が確保すればいいんじゃないの?」
「木を切るための男手が足りないそうです。大黒柱のほとんどは出稼ぎに出ていたり、そもそも村を捨てて別の地に移る者も多いため、人自体が足りないそうです」
「ところで、隣を歩く彼はどうしてずっと黙っているの?」
「お恥ずかしいんじゃないですか、リスト様は。ねぇ、リスト様」
「何でそれだけ適当な答えなんだよ!」
二人の会話に絶妙なタイミングで切り返し、リストは今まで俯いていた顔を上げて笑顔の部下を睨み付けた。
下らない半面何処かほのぼのとした上司と部下のやり取りを傍目に、おお…乗り突っ込みだ、とダリルは淡白な感想を抱いていた。


