亡國の孤城 『心の色』(外伝)


リスト率いる師団は、どうやらこれから人口調査に向かうらしい。…しかし、手元にある地図はだいぶ昔のものだし、師団の中にはこれから行く先の農村の地理にあまり詳しくないらしい。
行きで迷子になるのも馬鹿らしいし、無駄足になってしまう。
優先すべき復旧作業に目がいくばかりに、そんな基本的な準備を怠っていた様だ。

そんな困り果てるリストを、人混みの中からダリルはやはりじっと…凝視する。
焦点が定まっていないダリルの瞳は、妙な眼力がある。濁った双眸の眼光はやけに切れがあり、迫力もあり…故に、注がれるダリルの視線を感じ取るにはそんなに時間を要さなかった。


…不意にブルリと、リストの背筋に悪寒が走る。思わずびくりと肩を震わせながら、天敵に怯える小動物の如くキョロキョロと周囲を見渡し………そしてリストの視線は、こちらを凝視するダリルのそれと重なった。

互いの視線がズギャーンと変な擬音を交えて合わさった瞬間、リストは短い悲鳴を漏らして後退する。


…敵同士だったお互い、あまり良い出会い方では無かったが面識はある。
戦争後の今までほとんど言葉を交わすことも無かったし、イブの様にちょっかいも面倒もかけた事もない。仲が良い訳では無いが、別段悪い訳でもない。
昨日の敵は今日の味方となった、ただの顔見知り。なんとなく知っているが、まだまだ他人に近い知り合い…といった存在なのだが。


「…リスト様、どうされました?」

「……へ?…い、いや…!どうもされてない!」


何故だろうか。

リストは、この同じ歳のダリルという少年に妙な苦手意識を抱いている。
どうしてなのか…リスト自身、それが分からない。本能が震えているのだから、恐らく理屈では説明できない感覚の問題なのだろう。



…数秒間、変な睨み合いが続いていたのだが、ダリルの存在に気がついた部下の声が緊張の糸を断ち切った。

「…君は…確かダリル君、だったかな?陛下の古き戦友と聞いている」