亡國の孤城 『心の色』(外伝)

私にとって、妻や娘達の涙を見る事は何よりも辛いことだ。
辛くて、辛くて、胸が苦しい。



それなのに、神様は余程私を苦しめたいのか……沈んでいた私の意識は、その娘達の儚い啜り泣きで浮上したのだ。
重い瞼をゆっくりと開けば、そこは自分の見慣れた寝室の天井。

そして同時に襲いかかってくるのは……今までに経験したことの無いくらいの、強烈な頭の痛み。
いつもの頭痛とは違う。疼きと一緒に意識も何もかも全て持って行かれそうなくらいの、壮絶な痛みだ。痛い、と認識する頭自体が、悲鳴を上げる。

クロエの視界は全て、蜃気楼の様な世界と化していた。時折ピントが合うものの、すぐにぼやけてしまう。…不思議な世界だ。

お父様、お父様…と、私を呼ぶ娘達の声。視界の端から覗く二人の幼い娘の顔は、涙でくしゃくしゃになっていた。


私の目と耳は完全にイカれてしまったのだろうか。次第に視界が狭くなっていくのが分かる。恐らく傍に医者もいるのだろうが、難しい専門用語を並べたその声も、大きくなったり小さくなったりと…騒音にしか聞こえなくなっていた。


私は、どうしてしまったのだろうか。

ついさっきまで、夕食時の、雨が降りしきる真っ暗な夜の中にいた筈なのに。
今は、ほら。

外はあんなに。





ああ、綺麗な青い快晴が、広がっていて。




……ああ、雨が雨は止んだのか。

ようやく、止んだのか。







「…クロエ」





穏やかで、柔らかな日の光。
差し込む日光の向こうの綺麗な青空。
薄らぐクロエの視界に……泣き顔を両手で覆った妻の姿が、ぼんやりと見えた。

彼女は、カルレットは、泣いていた。
泣いていても、綺麗だった。

最初に会った時と同じ。
彼女はやはり、綺麗な女性だった。



彼女は、私の嫌いな私の名を、好きだと言ってくれた。






私は、彼女が好きだった。