当たり前だが、謁見の間の奥の玉座には、誰の姿も無かった。
来る度に煌びやかで厳かな空気が漂っていたこの部屋も、今は自分の寝室と同じ…雨と暗闇で構成されている…実に寂しい場所だった。この広大な部屋の面積が、物寂しさを更に増している要因でもある。
足元の長い絨毯を踏みしめ、クロエは無人の玉座の目の前にまで来ると、静かに立ち止まった。
こちらを見下ろす玉座。
今日までは見上げるばかりのこの玉座も、明日からは自分が腰掛けることとなるのだ。
人々を見下ろすその景色は、どんなものなのだろうか。
皆、私をどんな目でみるのだろうか。
そして私は、どんな顔で座っているのだろうか。
どうして。
「………私が、そこに腰掛ける人間なんだろう…」
玉座を中心とする薄暗いクロエの視界は、途端に大きく歪んだ。
どうしてこんなに見え辛いのか。それはいつの間にか熱を帯びてきた目頭で分かった。
王になるのが嫌?
いいや、違う。
流されるばかりの人生が嫌?
それも違う。
国の頂点に立つ事が恐い?
それも、違う。
…では、何が悲しいのだ。
違う。
違うのだ。
この目の前の未来に恐れている訳ではない。戸惑っている訳でもない。
そんなことではない。
そんなことじゃない。
私は。
私が悲しいのは。
私が恐いのは。
「―――私の未来を、守る事が出来ないかもしれないことが………恐い」


