白髪の男との遭遇の後、軍部大臣と戴冠式での行いについて話し合ったが…正直な話、何一つ頭に入らなかった。
今日が嫌いな雨だから。
昨日から続く頭痛が一向に止んでくれないから。
あの白髪の男に会ったから。
いつからか治まらなくなった胸のざわめきと不快感は、一体何が原因なのだろう。きっと色んなものが混ざり合ってしまって、そして自分が抱えられないことが原因だからだろうか。
薬を飲むと、一時的に頭痛が治まった。
代わりにやってくるどうしようもない倦怠感に、クロエは雨音だけが支配する室内の寝台の上で、見飽きた天井とシーツのしわを何度も交互に見ていた。
雨のせいで、階下の賑やかな声は何一つ聞こえない。明日が早いということで、娘達は今夜は早々に寝かしつけられていた。
いつもの可愛いお見舞いは、今夜ばかりはお預けである。
「……未来…」
出来ればこのまま朝まで目が覚めないでほしいのに、今夜はやけに目がさえてしまって仕方ない。目を閉じて瞼の裏に広がる黒に浸れば、昼間の…あの男の言葉が泡の様に浮かび上がってくる。
未来?
私では、守れない?
私の未来?
私の…未来……?
私の未来は…。
(………)
妙に気だるい身体を無理やり起こすと、クロエは無言で寝室を出た。
召使い達も食事をとっているのだろう。点々とある灯火が照らす寂しげな廊下は、クロエ以外の誰の気配も無かった。
クロエの足は、階下に伸び……そのまま城の奥へ続く一本の廊下へ。
そこは、今まで以上に人気も無ければ、暗闇が巣食う道だった。
その先には、クロエの未来の形がある。
既に決まった未来の形が、城の最奥にある。
真黒な重苦しい扉を開け放てば、そこから先は広大な空間が広がっている。
これまでにも、クロエは何度もこの部屋に訪れた事がある。何度も何度も。その先に見える…あの。
あの、緑の、玉座に腰掛ける人に会うために。
「………」


