亡國の孤城 『心の色』(外伝)


王族自らが城の外に出て、騎士の塔にわざわざ足を運ぶことなど、滅多に無いことだったからだ。 と言うより、今までそんな事が無かったのが逆に不思議なのだが。


クロエは付き人を一人も従えず、平然と城の外の長い石階段を降りていった。
見張りの兵士達は城から出て来たクロエを見るや否や、一瞬「…え?」と目を丸くしたが…次期国王陛下が付き人も付けず、鼻歌混じりに外を歩くなどそんなまさか有り得ない…とでも思ったのだろうか。
誰一人、最初だけ一瞬ピクリと動くものの、後を追う者はいなかった。


散歩が好きなクロエは、以前からこうやってふらりと城から抜け出しては日光浴をし、そして誰も気づかぬ内に戻るという習慣があった。
故に騎士の塔への道のりも、塔内の複雑な分かれ道も知っている。
迷子になることはないから独りでも大丈夫、と度々召使い達を困らせている。
召使い達から言わせれば、問題はそこではない。




真っ黒な曇り空の下を進み、クロエは騎士の塔へと踏み入る。
幾人かの国家騎士団の兵士達と擦れ違ったが、皆やはり一瞬クロエを振り返っては首を傾げた。

それもその筈。
軍部の人間には、あまり王族の顔が知られていないのが原因だ。元来味方にも秘密主義な王族の存在は、軍部でも大臣クラスや騎士団の総団長、師団長くらいしか知られていないのが現状である。
そのため、新米兵士は勿論のこと、平の兵士にはクロエが次期国王陛下である人物であるなど、知る由も無いのだ。
首を傾げた兵士達の心境を一言で述べるとすれば、「多分貴族なんだろうけど、なんか、一般人がいる」という程度だろう。


何食わぬ顔でそのまま騎士の塔の大広間を通過し、軍部大臣のいる部屋へと向かうべく長い螺旋階段を上る。
この建物の様式は、城のそれとさほど変わらないため、景色もよく似ているのだが。
…何だろうか。ここは、城とは違う妙にピリピリとした空気が漂っている。