その日の夜。
私は、娘の前で初めて泣いてしまった。
小さな娘にとって、心配性の娘にとって、父親の涙は何よりも不安に駆られるものでしかない筈なのに。
分かっていながら、私は泣いた。
本の一滴だけれど。
娘の瞳に、一筋の涙を映してしまった。
あの時、どうして自分があんな事をペラペラと話してしまったのか…翌朝になって思い返してみても、分からなかった。
ただ、自分の中で溜まっていた何かが…急に、溢れ出してしまったのだ。
ずっと秘めていた何かが、私を突き破って。
きっと、私はその何かが分かっている。
分かっているけれど、私自身が知らない振りをしているだけで。
向き合わないだけで。
昨夜から一向に収まらない頭痛を利用して。
今日も私は何事も無かったかの様に、一人のクロエとして朝日を拝むのだ。
生まれつきの物忘れがこんな時に働いてくれたらと、少しばかり思う。
窓の外は、昨日と同じ快晴…ではなく、残念ながら、どんよりとした鉛色の重そうな雲が気怠げに浮いていた。
湿度も高いから、その内雨でも振るかもしれない。明日は晴れてくれるだろうか。
少し多めに薬を飲んだおかげだろうか。
昼まであった大臣の熱血個人指導の最中は、全く頭痛は起こらなかった。しかし、所詮は薬。
痛みを緩和するだけのものであるから、時間が立てばその効果も薄くなっていく。
定期的に飲まなければならないのだが、薬漬けになってしまう身体が嫌で、クロエはあまり進んでのもうとしない。
どうしてもという時だけ、と決めている。
昼食を取り終えると、軍部大臣から明日の戴冠式で述べる台詞の確認をしたいと連絡があった。
そんなものまであるのか…とげんなりとしてしまうが、どうせ明日一日だけで終わるのだ。
別件で遅れるという軍部大臣に、ならば私からそちらに行きましょうと返事をすれば、あちらは酷く驚いた様子だった。


