階下から、賑やかな声声が聞こえてくる。
夕食時は何処も賑やかで、皆酒とお喋りに夢中になる。
明るい階下と、独り寝込むこの寝室。
同じ屋根の下にあるというのに、なんだかそれぞれが別世界の様に思えた。
寂しい訳ではない。
ただ、人々から少し離れればそこには奇妙な静けさしかないのだな…と、客観的に見る自分がいるだけなのだ。
そこにきっと、距離は関係無い。
「………明後日…か…」
そう呟くクロエの胸中には、少しの不安も緊張感も無い。
ただただ…不思議だなぁという妙な気持ちがポツンとそこにあるだけ。
そう、不思議なのだ。
一介の中級貴族の一人息子が、いつの間にか城にいて、いつの間にか世継ぎに恵まれていて……そして明後日には…国王なんぞという、夢物語でしか無かった雲の上の存在に、なるのだ。
何がどうして、こうなったのだろう。
どうして私みたいな人間が、こんな世界に関わることになってしまったのだろう。
どうして、私は。
「……お父様、まだ頭痛いの…?」
ぼんやりと天井を凝視し続けていたクロエの耳に、その可愛らしい声は優しく囁いた。
すぐさま寝返りを打ち、厚い枕の膨らみを潰して寝台の脇を見やれば……カルレットの元に行っていたと思っていた娘、エルシアが、お気に入りのぬいぐるみを抱き締めてそこに佇んでいた。
この部屋に至るまでの廊下は薄暗かったし、見ての通り寝室はほとんど真っ暗だ。
暗闇を怖がるエルシアには、悪夢の様な道のりだったに違いないだろうに…たった独りでここまで来たらしい。エルシアの他には誰の姿も見受けられない。
「……やあ、エルシア…」
寝台に寝転がったまま手を伸ばせば、エルシアは目の前にまで歩み寄ってきた。
柔らかなブロンドの髪が、月明かりでより一層美しく輝いて見えた。
その下にある母親に似た可愛らしい顔は、なんだか不安そうに歪んでいる。


