水面下で反発し合っていた派閥の対立は、クロエやカルレットの知らぬ間に優劣が決まっていたらしい。
国王が不在になってから、約三週間の時が過ぎようとしていた頃。
久方ぶりに時間がとれたため、家族全員でテラスにてお茶を楽しんでいたところに、大臣の一人がクロエを訪ねてきたのだ。
この頃には、カルレットもなんとか落ち着きを取り戻し、笑顔を見せてくれるまで回復していた。
それはクロエがその間、仕事をほったらかして尽きっきりで彼女の傍にいてあげた事が最大の要因でもあった。
妊娠が分かってから、まだそんなに日は経っていない。
妊婦独特の、目に見える腹部の膨らみも無いほっそりとしたカルレットの身体を、エルシアは不思議そうに見詰めている。
対するリネットは興味など欠片程も無い様で、「おねえさま、そんなに見ていても仕方ありませんわよ。来たるべき時に出るものは出るんです」と優雅にアイスティーを啜っていた。
微笑む母の周りでキャッキャと可愛いらしい談議を始める妻子を傍目に、クロエは大臣に歩み寄った。
「何だい?…何かあったのかい?」
小首を傾げながら正面にまで近付くと、大臣はゆっくりと、深々と頭を下げた。
これまで見た彼のどのお辞儀よりも、それは深い。しかも、なかなか頭を上げてくれない。
元々頭を下げられるのを好まないクロエは、彼の奇妙な行為を前に呆然と瞬きを繰り返した。
目の前の大臣と自分は、元々他愛も無い話や冗談を言い合う程の親しい仲だ。それが突然他人同士になってしまったような少しの悲しさを覚え、クロエは苦笑混じりに首を傾げた。
「…何をそんなに畏まっているんだい?…別に怒ったりしないから、顔を上げて…」
「いいえ、もう以前の様に易々と頭を上げるわけにはいかないのです………………次期、国王陛下よ」
聞き慣れてはいたけれど、呼ばれ慣れてはいないその格式の高い…眩しい名前に、クロエは唇を結んだ。


