何処か緊張感の漂う静寂は、夜明けまで続いた。
城内にいる者の多くは眠ろうとせずに、不気味な沈黙に耐えていた。
何処もかしこも死んだ様に静かで、その夜はとても長く感じた。
寝台に腰掛けたまま、無言で俯いているカルレットの隣に腰を下ろした。
月明かりを浴びてキラキラと控えめに輝く、金髪の美しい髪が、ゆっくりと傾いてクロエの肩に寄り添ってきた。
普段は気丈な彼女。
膝の上で重ねられた華奢な手が震えているのを見て、クロエは囁いた。
「………大丈夫かい?」
返事が無い代わりに、彼女は腕にしがみついてきた。
二人で肩を寄せ合いながら、クロエは窓の向こうに広がる夜空を見上げた。
あと数時間経てば、漆黒の海も次第に白んでいくのだろう。
夜明け前頃に、城内で誰かの叫びが響き渡った。
その震える声は、生涯忘れないだろう。
淡々とした短い言葉は覚悟をしていても、やはりあまりにも衝撃的だったのだ。
―――フェンネル王52世、崩御。
耳にした途端、わっとカルレットは枕に顔を埋めて泣き出した。
陛下の寝室の前は、険しい表情を浮かべる大臣達の人だかりが出来ていた。
その様子を遠巻きに、半ば呆然と見詰めていたクロエの視界に……階下から足早に駆けてくる人影が一つ。
思わず呼び掛けようとしたクロエは、その切羽詰まった悲しげな彼の表情を見て…口を閉ざした。
誰も入ろうとしない陛下の寝室に…恐らく夜の間馬車を飛ばして来たのだろう……無言のアレクセイが、静かに入って行った。
アレクセイの初めての主は、52世で。
52世が狂王となるまでずっと傍に仕えていた、陛下の懐刀の様な存在で。
息絶えたかつての主を前に、彼は何を思うだろうか。
静かな室内は、静かなままだった。


