亡國の孤城 『心の色』(外伝)


やはり、何かがおかしい。


何がおかしいのか、分からないが。





見えそうで見えない、誰かの手によって闇に葬られた何かが。
地図の様に切り抜かれた何かが。

知ることの出来ない真実の形が、見えなくて。



少しも見えないのに。







気持ちが悪い。

気味が、悪い。


この薄気味悪い感覚が作り出した…幻覚だろうか。
ぽっかりと空いた地図の穴に、いつか見たあの大きな、大きな炎が、霞んで見えた気がした。
























「―――…陛下が…?」



時が経つのは早いもので、いつの間にか娘達はすくすくと成長していた。長女のエルシアはもうすぐ5歳。次女のリネットは2歳。暖かい春も羽を休める冬に差し掛かかっていた頃。

それは、何の前触れも無くやってきた。










義父であるフェンネル王52世の容体が、その朝…突然悪化したという報せが入った。

…その年の春の始め辺りだったか。その頃から、陛下はほとんど寝たきりの生活になっていた。
訳の分からない事ばかりを呟き、以前から見えていたらしい幻覚も、頻繁に目にする様になっていた。

クロエや臣下達どころか、実の娘であるカルレットも忘れてしまったのか、誰の顔を見ても「出て行け」「去れ」と喚いては追い返してしまう。
…お歳を召してしまったからだろう、と周りは言っていたが、根本的な原因はそんなものではないとクロエは釈然としないでいた。


…残酷卑劣な狂王の人格へと変えた何かが、原因だ。ただ、その何かが分からない。狂王へと豹変したそのきっかけを、クロエは知らなかった。




そして目に見えぬその毒牙は、人格を超え、とうとうその老体にまで及んだのだ。


元々部屋に篭りきりで、人を寄せ付けない陛下。その就寝時を狙って部屋に入っていた高名な医師は、しばらくの間を置いて退室するや否や、力無く首を左右に振った。



…今夜が峠かもしれない。


医師の言葉に、大臣は両手で顔を覆った。