亡國の孤城 『心の色』(外伝)










首都から南側の地帯の、その一部分だけが切り抜かれていた地図を手に、クロエは自室を出た。

廊下で窓拭きや埃取りをする召使達の一人一人に、「いつもありがとう、お疲れ様」と律儀に声をかけながら、階下へと降りていく。

そのまま一階に降り立とうとした直前、二階のとある一室から、馴染みの執事が退室したのをクロエは見付けた。

別室に向かおうとする彼を慌てて呼び止め、クロエは踵を返して二階に上がった。

いつもはニコニコと朗らかな表情の彼が、何やら神妙な顔付きで近付いてくるのを不思議そうに眺めながら、「如何されましたか、クロエ様」と彼を目の前に迎えた。


クロエはシワが寄るほど強く握り締めていた地図を、執事の前に広げて見せた。

不自然に切り抜かれた箇所を指差しながら、口を開く。


「……この地図だけど、どうしてこの部分だけ、無くなっているんだい?…以前見た時は、こんな穴なんて…」

誰が何のために切り抜いたかは知らないが、執事なら、何か知っているかもしれない。
そう思い、クロエは執事の表情を伺うと……目の前の彼は、「…ああ!」と何か思い出した様に手を叩いた。


「その事でしたら……はい、切り抜いたのは私です。一週間前かそこらでしたか……突然、城から通達が来まして…屋敷に所有している全ての地図の一部分を、早急に削除…もしくは地図自体を処分する事と、よく分からない指示が書いておりました。…国王陛下の烙印が押されておりましたし、無視出来る筈もありませんでしたので、とりあえず切り抜く事に致した次第です。…理由は、地図に誤りがあるということでしたが…今更という感じですね。国中の地図を処分など…また大袈裟な。…申し訳ありません、クロエ様にお伝えするのを忘れておりました」




この不思議な勅命で、地図を売買していた商人は金をどぶに捨てたと嘆いているとか…。
陛下はおかしなことを言われるお方で…。














目の前で聞いているのに、執事の笑い声は、だんだんと遠ざかっていく。


切り抜かれた地図の穴を、クロエはじっと凝視していた。