「明日からもうゲイン家にお世話になるのかい?」
「ええ。…すぐにでもいらっしゃいと、奥様が言って下さったので…。……引退しても、私には暇など無いようですな」
「…そうかい。………この間、ちょっとだけだがゲイン候爵に会ったよ。中々の恐面で少し怖かったけど…話してみれば、とても礼儀正しい方だね。あの珍しいオッドアイも綺麗で、ついずっと見てしまっていたよ」
「本に、お優しい方ですよ。……奥様が御懐妊されたとかで、嬉しそうに話しておられましたから………私は世話係で決定でしょうな」
元々子供が好きな彼ならば、将来生まれてくるであろう子供の世話係を、立派に果たすに違いないだろう。
去年、カルレットも次女を産んでいる。
もうすぐ一歳になるであろう、二人目の天使の名前はリネットだ。
顔付きは綺麗な母親似だが、髪はブラウンで、目の色はエメラルド色。所々はクロエに似ていた。
まだ赤ん坊同然なのに、夜泣きはしないし、ミルクも哺乳瓶を掴んで自分で飲もうとする。気を使って与えようとすれば、紅葉の様なその手でピシャリと手厳しく叩かれる。
何だか既に自立している気がして、ちょっと寂しい半面、なんてしっかりした子なんだろう!!ありがとう神様!!…と娘の可愛さに酔いしれた。
「陛下への謁見ぐらいでしか会えないだろうし、君との接点はほとんど無くなるだろうけど………まぁ、頑張って。たまには手紙もよこしてくれよ」
優れた老兵から優れた執事へと道を決め、明日から歩んでいこうとする彼は、ただ微笑を浮かべて、深々と礼をして退室していった。
独り残されたクロエは、今まで向かい側に座っていた友の面影を探すように、まだ温かい空いた座席をぼんやりと見詰めていた。
…頭痛がする。
あの苦い薬は何処だったかな…と、クロエは立ち上がった。


