亡國の孤城 『心の色』(外伝)



…何か、変だ。

この国には今、何が起きているのだろうか。


自分の知らない所で、いや、世間の目が届かぬ所で、何かが。


何かが、起きている。行われている。息を殺して、ひっそりと。着実に。




…雲行きが怪しい。

























総団長であるアレクセイが正式に引退表明を出したのは、冬の息吹など欠片程も感じさせない、春真っ盛りの暖かい時期だった。
その日は雲一つ無い見事な晴天で、空の青さがやけに際立っていた。

しかしながらせっかくの清々しい天気も、残念ながら重度の頭痛持ちのクロエにとっては、少々眩しすぎるのだ。

至難の技である、直射日光を遮る翳した手の内で何度も瞬きを繰り返しながら、クロエはアレクセイの、総団長としての最後の挨拶を静かに聞いていた。


穏やかだが、妙に覇気のある総団長の言葉を、ズラリと整列する兵士達は黙って聞いていた。
よそ見をする者など、一人もいない。
皆、ただ真剣に彼の言葉を聴き入っていた。
師団長の中には、思わず涙を拭う者もいた。



あのアレクセイという男がいなくなるというのが、どれ程惜しい事なのか。改めて、分かった気がした。

本当に、惜しい。









「……明日になると、君はもういないのか。……やっぱり、寂しいね…」

「またまた…。こんなすぐ使えなくなる様な老いぼれなど、いなくなって皆清々することでしょう」

「そんな事言って君…引退表明が終わってから、さっきそこの廊下で何人かの兵士に泣き付かれていたじゃないか。……君が思っているよりも、君の人望は相当な厚みがあるんだよ」

「……傍若無人のアレクセイと嫌われていた若い頃と比べて、私も株が上がったものですな」



引退表明後、二人はクロエの自室でティーカップを片手にゆったりと語り合っていた。
日課だったいつものティータイムも、これが最後だと思うと、紅茶の味が違っているように思える。


やはり寂しいな、とつい溜め息が零れてしまうが、とにかく彼が息災ならいいではないか。