亡國の孤城 『心の色』(外伝)


狂王の悪政が世間に名を轟かせていた、その最盛期の頃だっただろうか。


首都から、遥か南方の、深い森を越えた更に向こう。
時刻は深夜を回り、しんと静まり返っていた闇色の世界の中で。



クロエは、大きな灯を見た。






目にしたのは、偶然だった。

首都から急ぎ屋敷に帰らねばならなくなったクロエは、少々良心が痛んだが…もう当の昔に寝入っていた業者と馬をたたき起こし、誰も起きてやしない首都から真っ暗な街道を馬車で疾走した。


首都から出て、離れにある小高い丘にまで来た時だったか。

その時偶然にも、クロエはその不思議な光景を目にした。



暗い暗い夜の海の向こうに、不知火の如く燃える灯。

………大きな、火だ。


一瞬、山火事かと思ったが、燃え広がっている様には見えない。

では、何が燃えているのだろう。

あの方角には、何があっただろうか。







ああ、それにしても。


大きな、炎だ。

























屋敷に帰ってから、クロエは膨大な仕事に追われ、あの夜に見た奇妙な景色の事はすっかり頭から消え去っていた。

だが、それから数日経ってあの光景が不意に脳裏に浮かび、急に出来た隙を持て余していたクロエは、何気なく地図に手を伸ばした。



机の上に広げたそれは、ここフェンネルの国土が細かく記された地図だった。
確かあの火が見えたのは、首都から南方だったかな…と紙面に指を滑らせ、目で追ったが。


(―――…あ…れ…?)




クロエの人差し指は古地図の端に行き着く前に、奇妙にぽっかりと空いた正方形の穴に、落ちた。








何故か、首都から南方を記していた筈の箇所だけが、大きく、切り抜かれていた。













季節は春。冬はまだまだ先だというのに。


寒気がした。