私の妻…カルレットは、このフェンネルの現国王陛下であらせられる52世の一人娘…つまり、この国では陛下の次に身分の高い姫である。
王妃様は随分前に亡くなられており、カルレットの肉親は陛下だけであった。
このまま時が流れれば、自然、次の王座にはカルレットがつくこととなる。歴代の王には女王も何人かいたが、それは極めて稀な事例で、世継ぎがいない場合の最終手段であった。
カルレットは大臣も舌を巻く頭脳明晰な女性で、男にも負けないくらい活発な明るい人柄を持っており、王になっても不足は無いように思えた。
…だが、一人娘に王という大役を任せるのが…陛下はやはり心配だったのだろう。
カルレットに、婿を与えることにしたのだ。
アレスの書では、王座につくのは定められた王族の血統者であると記されているが、正式に結婚し、且つアレスに認められた者であれば、王となることを許されるらしい。
そういった例がいくつかある。
…そんなこんなで、カルレットの婿選びに幾つもの貴族が城に呼び出されたのだ。
………直々にカルレットと対面するわけではない。
…陛下が、決められるということだった。何を基準にしているのか分からない陛下の独断で、カルレットの婿は選出されることとなった。
……その話は、クロエも風の噂で耳にしていた。
だが、貴族階級の中でも中流の端っこの極めて平凡なサロエ家など縁も所縁も無い話だと気にも留めていなかった。
…その内、婿話は全く聞かなくなった。
結局婿は決まったのか、そもそも本当にそんな事があったのか。
いつしかすっかり忘れてしまい、ただ時は流れた。
……それから、一年経つか否かという時だったか。
それまで穏やかだったこの国に、何とも陰湿で、暗くおぞましい狂気が降りかかった。
……狂気は、陛下そのものだったに違いない。
………尊敬され、王の中の王とまで称えられた陛下は……狂人と化したのだった。


