……二人並んでいる時点で既に身分を無視しているが。
「………それで……アレクセイ、君はいつ引退表明を出すのかな?」
「………まだはっきりとは決めておりませんが……ま、その内です」
「引退した後はどうする気だい?………噂では君、軍部大臣の推薦を断ったらしいじゃないか。………里に帰るのかい?…約三十年ぶりに…」
「………フフッ……そんなに間を空けておいて…今更帰ろうにも帰れませんよ。……私は元々身分が低過ぎます故、大臣の座は辞退致しました。………老後はのんびり…とは性に合わないと思っていた矢先……とある貴族様からお声が掛かりまして…。……………老いぼれの私を、召し抱えて下さるそうです」
国家騎士団総団長のアレクセイ=リドムは、周りに惜しまれながらも引退する意志は固い様で、着々と身の回りの処理をしている。
仲の良いクロエにとって、それは残念且つ寂しい事だが、本人がそう言うならば仕方無い。
軍服を着た彼が見れないだけで、会おうと思えばいつでも会えるが。
「で、君を召し抱えてくれるっていう貴族とは何処のお家かな?」
「ゲイン侯爵様に御座います。…厳格な旦那様と、お綺麗な奥様が二人揃って私に声を掛けて下さりまして。………世の中には変わった方もおられるのですな」
「……良かったじゃないか。じゃあ、君は国に仕える総団長から、貴族に仕える執事か何かに昇進するわけだ。…面白―い」
………どちらかと言えば昇進ではなくその逆なのだが。
クロエは執事姿のアレクセイを想像しながら面白そうに笑った。
きっと、世界で一番最強の執事が生まれるに違いない。


