それは、暖かい春の真っ直中だった。



春に飽きてしまう程、この緑の大地は生温い平穏に浸かり、いつまでも木々は青々とし、いつまでも花々はお天道様に顔を向けて風に揺れながら挨拶を繰り返していた。




平和だ。



この一時だけ、平和だ。




そう思えた。








そんな平和ボケした空気の中で、私はやはりぼんやりと……。



………そう、普段トロイだの何だのと言われている私がいつも以上に、ぼんやりと………その、春の日溜りと言うのに相応しいそれを、見下ろしていた。






………初めて見るものだったから、私はそれを目にした途端、すぐに釘付けになってしまった。



小さい。



小さい。




小さくて……。














「……クロエ様…」


傍らの召使の呼ぶ声で、私はハッと我に返った。


促されるまま、小さなそれに手を伸ばし………そっと、両手で触れてみた。





春の日溜り。


想像したとおり、それは温かい。

…何だか落ち着くその淡い熱。





しかし、思っていたよりも………柔らかくて、ズシリとそれなりに重くて…………そして…。



やはり、小さくて。















………落とさない様にしっかりと腕に抱えて、空いた手の指先で、そっと…触れた。







指先の、限られた範囲の神経に………日溜りの鼓動を感じた。



生きている。




生きている。






………小さな………小さな………命の……。

















「―――………可愛い…」