…目の前。……鼻と鼻がくっつきそうな位近くにあるイブの顔。
涎を啜り、三つの目を同時に瞬きさせ、舌なめずりを繰り返し、ツンとくるキツい異臭を放つ吐息をかけてくる。
………自分の上に乗っかっている彼女は、傍から見ればかなり妖艶であろう。
散々動き回って乱れた軍服の胸元からは、女性特有の豊満な肉体が覗いているし、華奢な身体付きや色白さがこの至近距離でよく分かる。
………分かるよ。分かるけど。分かるけどね。
ぶわっ……と、滝の如き冷や汗をかき、無表情のリスト。
後頭部の痛みだとか足の痺れだとか、全部忘れた。
………小さな掠れ声で、リストは目と鼻の先のイブに向かって言った。
「…………………………あの……………アベレット、さん………………自分、絶対美味しくないので。………血なんか腐ってますので………変な臭いとかしますので………あの………だから………」
………イブの下でガクガク震え始めたリスト。
食われる。食われる。食われる。食われる。
凄まじい恐怖がわき起こってくる。
しかし、そんなリストの言葉が届いている筈も無く、イブはニンマリと笑ってカッと開いた口を首筋に下ろしてきた。
ちょっと待て。
たんま。
たんま。
たんまたんまたんまたんまたんまたんま。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――!?死んでたまるか糞野郎ぉぉ――!!」
ありとあらゆる万物に祈りを捧げて得た懇親の力を振り絞り、リストは、イブに頭突きを放った。


