(………このっ……!)
片手で口を覆ったまま、空いている方の手を使い、リストは短剣の柄でイブの頭を殴ろうとした。
………が、偶然か何なのか、イブは素早く屈み込んでリストの一撃を躱し、あろうことか、短剣の刃の部分に噛み付いてきた。
短剣はズラリと並んだ牙に上下を固定され、ビクリとも動かない。
しまった……。身動きがとれない…。
もう一方の短剣で応戦しようと思えば出来る。が、今はまだ毒ガスが蔓延していて、下手をすれば吸い込んでしまう。
しかし、考えている暇などリストには無い。
下手に動けなくなったリストに、イブは長い爪で引っ掻いてきた。
爪は軍服を切り裂き、首から胸辺りまでを斜めに裂いた。
………毒ガスを吸う覚悟で動くしかない。
さっき、本の一瞬吸ってしまったせいか、両足が痺れて上手く動かない。動くのは上半身のみ。
…………悪く思うなよ馬鹿娘。
お前は昔から……生意気でヘラヘラしていて人を小馬鹿にして見下して怒らせて小癪で我儘で馬鹿で間抜けで阿呆で能無しでどうしようもないさ。
恨みなんてありまくりだよ。
だがな、それでもお前は一応、悔しいが、絶対、絶対認めたくないが、国家騎士団の兵士だ。
仲間だ。
そんな仲間のお前に手を掛けるのは嬉しくて仕方無……忍びないが、許せ。許せよ。
俺を許してくれ。
………よし、綺麗事は終わりだ。
「食らえぇぇぇ!!馬鹿が!!」
少し嬉しそうに笑みを浮かべたまま、リストはもう一本の短剣を一気に振り下ろした。


