亡國の孤城 『心の色』(外伝)



羽ペンの先にインクを浸し、滑らかな羊皮紙の表面に近付けた。
黒光りするペン先が触れ、じんわりとインクの黒が滲み出す。



承諾者の名前を記す部分に、『ダリル=メイ』と自分の名が均整の取れた形でサラサラと書かれ、書き終わる……と思った、直後。












―――ダンッ!!



















執務官長室の品の良い扉が、外側からまるで体当たりでもされたかの様に物凄い勢いで叩かれ、大音響共に部屋がやや揺れた。

「……っ…!?……な、何事じゃ」

驚いて落としてしまった帽子を拾い、補佐の老人はおろおろしながら正面の扉を見詰めた。





………ダリルは、目下の書類を見下ろしたまま………静かに、眉をひそめた。

















―――………歪んだ…。





今の揺れで名前の最後が変な方向に歪んでしまったのをジッと見詰め、ダリルはその妙に怖い無表情を上げた。





………数秒の間を置いて、正面の扉に第二波の衝撃と轟音が放たれた。

部屋はまたもや小刻みに揺れる。
机の上の書物は倒れ、ランプは落下して絨毯の上に転がり、積み重ねてあった書類の山の頂上は崩れた。

補佐の老人は突如来襲した原因不明の恐怖にすっかり震え上がり、「アレス!アレス!お助け!わしに慈悲を!」と手を合わせながらダリルが腰掛ける椅子にしがみついていた。




…第三波の衝撃が扉を叩いた時、ダリルは羽根ペンを一旦インク壺に突っ込み、今にも壊れそうな扉を眺めながら頬杖を突いた。




扉一枚隔てた向こう側は………何やら騒々しい。