四階の渡り廊下の先には、執務機関となっている塔がある。
その長い廊下の真ん中を、イブは風の様に疾走していた。
執務官達は、猪突猛進してくるイブに驚いて道を空けていく。
羊皮紙の束が散乱し、廊下一面にインクが零れた。
迷う事無く突進むイブの後ろを、うわああああ!?と悲鳴に近い叫びを上げる兵士達が追い掛ける。
どうにかしないと…この状況。
………執務官長こと、魔王ダリルには……実は、この異常事態の事を、怖くてまだ報告していなかったのだ。
魔王様には内密で事を解決したかったのだが………ああ、無理っぽい。
兵士達は剣を見境無くブンブン振り回しながら、半ば泣きながら、彼女を追い掛けた。
「イブ様ぁ―!!そっちは!!そっちだけは勘弁して下さい!!」
「指をちょっと囓ってもいいから!!10cc位なら血液あげますから!!」
「後生だから―!!あああああ駄目だ!!追い付けない!!ごめんなさいダリル様―!!」
うわぁー……ん………。
男達の泣き叫ぶ声が、廊下に響き渡る。
そしてその声は勿論、最奥の部屋で書類に目にも止まらぬスピードで判子を押していたダリルの耳にも、届いた。
書類から目を外し、扉の方をちらりと見やる。
「………はて、何やら騒々しいですな…」
傍らに立つ官長補佐の老人にも声は聞こえていた。
度重なり、止まない悲鳴。
歩くべき廊下を走る足音の群れ。
混乱する執務官達の驚愕に満ちた叫び。
「…………………………………うるさいね…」
最後の一枚に力強く判子を押し、次の書類の書名に取り掛かろうとした。


