軍服を着たまま寝たのだろうか。
しわが付いた軍服に身を包み、ブーツも履いたままの状態。
長いポニーテールだけが重力に従ってだらりと垂れ下がっている。
………天井をゆっくりと、這う、イブ。
時折、カサカサと蜘蛛の様に移動する。
寝癖がつき、垂れた前髪から覗く彼女の顔は………………何だか、いつもと違う。
額の第三の目はカッと開き、赤ではなく黄金色に爛々と輝いていた。
口元からは鋭利な牙が覗き、長い舌は垂れ、色白の肌はやけに紅潮していて………。
少し乱れた軍服の端からは、長く細い尻尾がクネクネと動き回っており、その鋭利な先っぽで天井にグサグサと穴を空けていた。
ハァ―……と、やけに響き渡る彼女の吐息は赤い蒸気の様。
………獲物を狙う獣の如き彼女の三つの瞳は、ぼんやりと宙を仰いでいたが………その虚ろな視線は、大広間で自分を無言で見上げる兵士達を捉えた。
……途端、ニイッ…と唇を歪めて妖しく笑みを浮かべ、イブは天井から螺旋の手摺に跳び移った。
そしてそのまま……荒い息を漏らしながら………手摺の上を四本脚で辿り………じわりじわりと地上に降りて来た。
「―――…リスト様」
「何だ」
「………俺の本能がとにかく逃げろって喚いているんですが」
「奇遇だな。俺もだ」
………兵士達は皆、一歩…また一歩………後退し始めた。
螺旋階段から出来るだけ離れようと。
物音を立てない様に。
…だが。


