「―――総員、整列!!」
暁を越え、聳え立つ山々の向こうからこの世の光の光源ならぬお天道様が顔を出してから、早数時間が経つ頃。
緑が溢れる春の始め。
去り行く冬季の名残なのか、日が昇った後も空気はひんやりと仄かに凍て付いていて。
たくさんの人々が暮らす、活気溢れる都市の頭上には、ミルクをぶちまけた様な、真っ白な霧が立ち込めていた。
その霧目掛けて、煉瓦造りの家々の煙突からは、細い煙が揃って立ち上ぼる。
穏やかな、朝。
平和だな、と呟きたくなる程の、大国フェンネルの朝。
のどかな、春の訪れ。
…都市から離れた真北に位置する大地には、純白の巨大な城が佇む丘。
城の前の広大な原野には、その広さを軽く埋め尽くしてしまう程の、数え切れないくらいの墓石。
それらを見下ろすかの様に、原野の中央には天まで届くのではないかと言うくらいの、これまた巨大な樹木が根を張っていた。
空を覆い尽くす枝や漆黒の葉が、足元の墓の群れに影を落としていた。
………陽光を浴びて白く輝く丘の上の城。
フェンネルの頂点に立つ王族の、その偉大なる歴史やきらびやかな栄華を誇る様な、美しい装飾が施された城の内部。
その、入口である巨大な扉を越えた先にある大広間は、縦横斜めと一寸の狂いも無く見事なまでに整列した兵士達で埋め尽くされていた。
本来ならば、軍部機関である兵士は丘の下の貴族の城、塔に出入りをしているのだが、今朝は別件により、入城していた。