両手の平に横たわるのは、干涸びた一本の花。
少し力を入れて握ってしまえば、すぐに崩れてしまう…脆い、ドライフラワー。
茎や葉の緑も、花弁の赤も、年老いた姿の様に本来の美しさを失っていた。
だが………その香りだけは、いつまで経っても、色褪せない。
凍て付く冬の中でも、この花は、いつまでも匂い立っていた。
いつまでも。
「……………せっかちだわ………本当に。…………肝心の台詞を言う前に、代わりの花を渡して………………逝ってしまうなんて………」
あの御伽話と、順序が違うじゃない。
先に花だけ残して………………これじゃあ……お話通り………。
「―――………追いかけられないじゃないの………」
縦長の大きなベランダの窓を開け放ち、差し込む陽光を浴びた。
花を握ったまま、リネットはベランダから出て………美しい装飾が施された縁に寄り掛かり、気怠そうに…頬杖を突いた。
暖かい春の匂いを含んだ風が、頬や髪、瞬き一つしない彼女の目の長い睫毛を撫でていく。
春はもう…すぐ、そこだ。
未だに眠っている草花や、夢の中でさえまどろむ生き物達を起こそうと、優しい目覚めの歌を口ずさんでいる。
全てのものが待望む、私も今か今かと待ち望んでいた春。
しかし今は………どうして待ち望んでいたのか………分からなくなってしまった。
………花なんて要らない。
そんなもの要らないから………だから。


