小さく舌打ちをしたかと思えば、アベルは強く握り締めていた花束の包装を乱暴にむしり取り、束ねられていた花の一本だけを掴むと………。
―――…ただ無言で、リネットの目と鼻の先に突き付けた。
リネットの視界一杯に、小さく開いた花びらの赤が広がった。
……目の前のこの花を、パチパチと瞬きを繰り返しながらとにかく受け取ると、アベルは真っ赤な顔を出来るだけ隠す様に、一歩後退した。
………何処にでもある様な、赤い花。
曲線を描いた花弁の内からは、微かに甘い香りが漂ってきていた。
「…何かしら?」
「………………訊くなよ…」
「………」
…それでも訳が分からずに首を傾げていると………しばらく押し黙っていたアベルが、何かを決意したかの様に………顔を上げた。
凛々しいその顔は林檎の如く真っ赤ではあるものの………まっすぐなまなざしが、リネットを映していた。
「………………………代わりだ。………代わりの花だ。………………お前が前に話してくれた御伽話で…あっただろ……。………………………………絶対………絶対に言うからな……。……………………次に会う時まで……………待ってろよ…。………………………絶対にっ……言うから…それまで他の野郎は全部無視してろ……!」
代わりの花。
………摘んできてくれる真実の花は………待つ程の価値があるのかは分からないけれど。
彼が待てと言う、真実の花である言葉は………………とても、興味があった。
待ってみようか。


