こっち見るんじゃねぇよ馬鹿野郎が、と不機嫌な様子でぼやき、アベルは顔を背けた。
しかしリネットはお構いなしに、まだ汗が浮かぶ彼の横顔を凝視し続ける。
「………」
「―――」
会話も無ければ双方共に物音一つ立てない、奇妙な………この、間。
一切の音を受け入れる気の無い、何処か張り詰めた空気。
リネットの視線とこの空気の二つに耐えていたアベルだったが………足元を見下ろしたまま、不意にポツリと呟いた。
「………………全部……知ってるのか……?」
「何をかしら?」
「…いや…何って………………………だから……」
言い辛そうに…と言うか、何と言っていいのか言葉に迷い、口ごもるアベル。
彼が言いたいのは多分……先日の…召使のミスでボロが出てしまった件。………………彼自身の事に付いてだろう。
ちらりと見える俯いたしかめっ面は、心なしか………ほんのりと紅潮している様に見えた。
「……ああ。………………洗いざらい聞かせて頂きましたわ」
それが何か、とでも言わんばかりにサラリと言い放つ無表情のリネット。
アベルは気まずそうに頭を掻いたりポケットに手を突っ込んだりしながら、何だか落ち着かない素振りで「………あ……そう」とまた呟いた。
「………でも私、何だか釈然としませんの」


