床に散っていく哀れな赤い花びらが、「無念…」と呻きながら風に乗って絨毯を転がっていく様に見えた。
アベルの父は女王陛下のいる謁見の間へ向かったらしい。
まだ戻っては来ないだろう。
とにかく父を待つしかないアベルは、リネットの部屋には入らず、二人揃って部屋の前の廊下で暇を持て余していた。
度々二人の脇を召使や大臣が通って行く中、お互いほぼ無言のままだった。
第三者の足音だけがここで目立とうと、廊下中を異様に響き渡る。
……廊下の端と端で向かい合う様に佇む二人だったが、視線は重なってはいなかった。
アベルは、相変わらず無愛想な、敵意に満ちた目付きで壁に寄り掛かり、手元や足元を見ていたが…。
それに反し、リネットは………………アベルを穴が空く程凝視していた。
腕を組み、仁王立ちする彼女は、まるで彼を監視するか観察するかの様に、その鋭い目でじっ…と見詰める。
………彼女の視線はただでさえ鋭いのだ。
凝視など、並の人間には耐えられない。
それは勿論アベル少年も例外ではなく、極力無視しようとしているものの、そのしかめっ面にははっきりと珠の様な汗が流れていた。
……アベルは今…蛇に睨まれた蛙状態。
………おかしい。いつからこんな立場になっていたっけ。
「―――………凄い汗ね。お腹でも壊したの?」
「どうしてそうなるんだよ」
お前の視線が痛過ぎるからだよ!、と悪態を吐いた。
「………ああ……気になさらないで。特に意味は無いから」
「気にするなっていう方が無理だろ」


