「ああ、アベル様、お帰りですか。すぐに馬車を用意させますね。一階の方でお待ち下さいませ」
「………ああ…分かった」
笑顔の召使は軽く会釈すると、何かを探しているかの様にキョロキョロと辺りを見回した。
「……………姫様は……リネット様はどちらに………てっきりご一緒におられるかと……」
リネットがアベルの後ろの方にいる事に気が付かない召使。
ああ、見えていないのか、と理解したアベルは、「そこに…」と呟きながら指を差そうとした。
………が、その呟きは、急に何かを思い出した様に手を叩いた召使の甲高い声によってかき消された。
「………ああ、そうでした!アベル様、先月リネット様の元に訪れになった殿方様ですが、四人程いらっしゃいましたよ!」
………と、召使は何故か、先月来た差し金の人数を言った。
勿論、それが聞こえているリネットは……首を傾げた。
………そんな事を言ってどうするのかしら。
意味が分からないわ、と訴える様にアベルに視線を移すと………………彼は………何故か……………そう………。
………………何故か、焦っていた。
さっきまでの気難しい表情は何処へやら。
笑顔の召使に向けている彼の顔には、滝の様な汗が流れているではないか。
………そう、まるで………秘密がばれてしまった時の様な…。
豹変してしまった不可解な彼の態度を訝しみ、どうしたの?、とリネットは声を掛けようとした。
………が。


