少し離れた場所で、彼は車を停めてこちらに向かってきた。 「旦那さま登場ね」 クスクス笑う女将さんに、私は頭を深く下げた。 「女将さん…。今まで本当にありがとうございました。 女将さんの言葉が、私に勇気をくれました。励ましてくれました。 私に、緋桜を授けてくれました。 ……本当に、」 きちんと感謝の気持ちを伝えたいのに。 言葉が詰まって出てこない。 .