愛する人。





 一人になったあの日。



 涙で歪んだ月。


 でも……あの月明かりのおかげで、ここまでたどり着けたんだ。




 暗闇ではなかった。


 伸ばした手は、放してしまったけれど。



 一人になった私を明るく照らしてくれたのは、あの日の月だ。





「じゃあね。お先に〜」



 私が月を見上げていたら、同じ早番の人が帰って行った。


 私は挨拶を終えると、吸い込まれるように庭先に足を向けた。