――三年前。 右も左も分からずこの町に来た私を、女将さんは黙って働かせてくれた。 始めはお客さんとして。 一週間後には、従業員としてこの旅館にいた私。 多くを語らない私に、みんなはずっと優しく接してくれて……本当に、嬉しかった。 頑張っていこうって、本気で思った。 ……あの夜も、こんな月が出てたっけ。 彼の元から去ったあの日も、今と同じ、欠けた月が出ていた。 従業員出口から見上げた空。 この三年欠かしたことのない日課は、月を探すこと。 .