愛する人。





「ほら、次行きますよ」



 まだ名残惜しそうに水槽に目を向ける彼女の手を掴み、先に促す。


 渋々だけど、俺についてくる彼女に、小さく笑った。







 2人でゆっくり見て回ったけど。


 それ程大きくない館内を見終わるには、アッと言う間で。



「……ここで終わりだね」



 彼女は水族館の外にあるペンギンのプールを眺めながら、小さく呟いた。



 俺は何も答えず、ただ、ペンギンを眺めていた。






「……そろそろ行こうか」



 聞き取れないくらいの小さな声で、彼女に言った。





 気付かないで。



 気付かないで。





 彼女は、俺の小さな願い等気付かないように、俺を見上げ、


「…うん。 行こうか」

 俺を見上げて、柔らかく微笑んだ。