愛する人。




 誰も居ない真っ暗な部屋に大きな声を出す。

 電気のスイッチを入れて、後ろ手でドアを閉めようとすると、


ガコンッ



 振り向きドアを見ると、少し隙間が開きこれ以上閉められない。

 不思議に思いながらふと、下に視線を落とすと、男物であろう靴が隙間に挟まっていた。



「あ…っ い、や…っ」



 恐怖で声を出そうとした瞬間。

 ドアが勢い良く開き、男性が一人入ってきた。


 男は慌てて部屋の中に逃げようとした私の腕を掴むと、後ろから抱き締めてきた。


 右手で口を塞がれ、左はガッチリと体に巻き付き、身動き取れない。


 恐怖で目に涙がにじむ。


 必死にどうしたら良いか考えていると、左耳に男の息がかかった。



 ――気持ち悪いっ!