「最近、あんまり眠れないのよね」

妻の口癖だった。
あの頃、誰に伝えたいわけでもなく、独り言のように妻は「眠れない」と呟いていた。

妻の目覚めは早い。

7時に起きる私より、遅くまで寝ていたことはなく、目覚めればいつも彼女は、朝食の準備や洗濯などの家事を、精力的にこなしていた。

そう、彼女は元来まじめな性格なのだ。

夜、眠れない。
誰にでも経験がある。私にだってある。
楽しみにしている旅行の前夜などは眠れない。
仕事でトラブルが重なった時なども、あれやこれや考え込んでしまい眠気が飛んでしまったりする。

だから、言われても気にしなかった。

眠れないと言う妻の悩みに対して
「夜寝れないなら昼寝でもすれば?」と簡単なアドバイスをした。
彼女がどんなに辛いのか考えもせずに。

今にして思えば、あの日からすべてが始まったのだ。

4年以上にも及ぶ、うつ病との闘いがあの日から始まったのだ。