誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




『理由なくても、会いに行けばいいじゃん。』

「でも…ウザいって……思われたくないんだもん…。」

『はぁ…。』


杏ちゃんの溜め息が、嫌に私に響いてくる。

仕方ないじゃない。

昔の私だったら、理由もなく会いに行くなんてこと、造作もなく出来たわよ。

でも、これが本気の恋だって、分かったんだもの。

きっとこれが、私にとって最後の恋になるって…感じてるの。


そう思ったら…勇気が出ないんだもん。

会いに行く勇気。

こんなにも会いたいのに。

会いたくて会いたくて、毎日毎日、新様の笑顔を思い出すのに。


いざ、新様に会いに行こうってなると…足が竦んでしまって動かないんだもの。


ピーンポーン…

「あ……」

『今は恋より仕事。また夕方ね。』

「はぁーい…。」


考えにふけっていると、鳴り響いた1時を告げるメロディ。

私は仕事。

杏ちゃんの言うとおり、今は仕事しなきゃ。

緩んだ気持ちを引き締めて、私は杏ちゃんの病室を出た。