誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




『いつもより、元気なさそう。』

「あ、んちゃん…?」


杏ちゃんの瞳は本に向けたまま。

杏ちゃんが喋った…?


『……何。』

「杏ちゃんが、喋った……?」


今、起きていることに私は固まっていた。

嘘…本当に?

杏ちゃんが、喋ってるの…?


『…ふっ……やっぱ、あんた良いね。面白い。クスッ』

「笑ってる……」


あんなに、無表情だった杏ちゃんが、今、笑ってる……


「ッ……」


どうしよう。

この上なく、嬉しすぎる。


だって、今まで目も合わせてくれなくて、

何を言っても無反応で、

表情一つ変えて見せなかった杏ちゃんが――…アクションを起こしてくれた。


こんなに嬉しいことって、ない。