誘い月 ―I・ZA・NA・I・DU・KI―




ガララっ――

それから、私は杏ちゃんの病室へと来ていた。

あ…


杏ちゃんを見ると、杏ちゃんの手には私が渡した本。

読んでくれてるんだ…。

嬉しくなって笑顔になる。


杏ちゃんのところに来たのは良いものの、とくに理由はなかった。

ただ、杏ちゃんの顔が見たくなった…からなんだろうか。


いつも座る丸椅子に座る。

病室内に杏ちゃんが本のページをめくる音だけが響いた。

杏ちゃんといると…

何も話さないけど、この空間、なんだか落ち着くんだよね。

私が癒されてどうするんだって感じだけど…。


――『何かあったの。』

「え………」


初めて響く、私以外の声。

今、何が起こった――…?